ソフトウェア製品を開発しているエンジニアのモチベーションは、技術力を示したいとか、社会を変えていきたいとか、人それぞれであるが、モチベーションの源泉となる伝統があった。それは Lotus Notes だけではなく、その当時の多くのソフトウェアに組み込まれていた Easter Egg と呼ばれる隠し機能である。それは、あらかじめプログラムされた秘密の動作によってのみ起動する機能で、ドキュメントのどこにも記述されない。その使い方は開発者から口コミだけで伝えられることになるので、ソフトウェアがリリースされてしばらくは、その話題でもちきりとなる。営業担当者の中には、いち早くその起動方法を開発者から聞き出して、お客様にこっそり教えることに命をかける人もいた。しばらくすると雑誌などで取り上げられて、皆が知ることになるが、これこそが開発者の遊び心であり、会社も公然とその機能を埋め込むことを認めていた。
私が開発に関わった Lotus Notes R5 のリリースでは、Easter Egg で、すべての開発担当者の名前が順番に表示する機能が組み込まれた。映画の最後のテロップのように、開発者の名前が順番に表示される。Iris の開発者はアルファベット順に一人ずつ表示され、その後世界中の関係者が5,6人ずつ表示されるように作られていた。しかし、ある開発者が、自分の名前を見るまでに時間がかかるのを嫌って、ログインしているユーザ名と同じ名前がリストにあるときは、最初にその名前を表示するという手の込んだ機能を作った。このため、開発者は自分のユーザ名でログインしていると、すぐに自分の名前を見ることができた。
映画のテロップの例を出したが、まさにその通りで、ソフトウェアエンジニアにとって、製品は映画や絵画と同じ「作品」という意識が強かった。その作品に自分の名前を入れるということは、何にも増して最高のモチベーションであった。しかし、IBM による買収の後のリリースでは、Easter Egg を起動するコードは、すべてが消去(実際はコメントアウト)された。製品に不要なコード、そして自分の名前を入れるなど IBM にとっては、無駄以外のなにものでもないということのようだった。そうして、ソフトウェア開発の伝統の一つが消えた。
今でも Microsoft 社製の製品には Easter Egg が残されている。今もソフトウェア開発の伝統を継続していることは尊敬に値する。かつての Iris のメンバーの多くが、その伝統を残す Microsoft で活躍していることには非常に納得できる。この良き伝統を今後も守り続けてくれることを願っている。
2009-07-24
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