2009-08-20

特殊な日本のグループカレンダーへの要望

ソフトウェア製品の多くの物は、それまでの業務をソフトウェアに置き換えた物である。Microsoft Word は、かつては万年筆で書いていた「手紙」や「文書」をコンピュータ上で簡単に美しく書けるようにした物だし、PowerPoint は、OHP (Over-Head Projector) で行っていたプレゼンテーションを置き換えた。

個人のスケジュールは、システム手帳(今はこの言葉も死語かも)を置き換えた物として開発された Lotus Organizer などの独立したソフトウェアが存在したが、現在は Outlook や Lotus Notes などのメール系のアプリケーションに組み込まれていることが多い。Outlook にしても Lotus Notes にしても、メールと共存している以外は、システム手帳のアドレスとスケジュールの機能がソフトウェア化されただけにすぎない。ソフトウェア化の恩恵としては、スケジュール調整のためのやり取りをメールを使ってやれば、それが自分のスケジュールに自動的に反映させることができるようになったことがあげられる。

ところが、「スケジュール」という機能をソフトウェアにするときに、個人のシステム手帳をソフトウェアするだけでは機能不足と考える国がある。その代表的な国は日本である。日本のオフィス(特に外回りの多いオフィス)では、コンピュータが普及する以前からスケジュールはグループメンバーの外出先を書いた「ホワイトボード」で管理されていた。「スケジュール」機能をコンピュータ化すると考えたときに、真っ先に頭に浮かぶのが、「ホワイトボード行き先表示板をコンピュータで管理したい」という要望であった。ソフトウェアを作っている日本のエンジニアは、当然行き先表示板を見たことがあり、その使い方も理解しているので、ホワイトボードが提供していた機能をそのままソフトウェア化した。この行き先表示板の特徴的機能として以下の機能があげられる。

1. 誰でも他人のスケジュールを見ることができる
2. 誰でも他人のスケジュールであっても書き換えることができる
3. 誰が書き換えたとしても、ホワイトボードのスケジュールが「真」である。

そうしてできあがったアプリケーションは、「サイボウズ」をはじめとする日本型グループウェアである。それに対して、個人のスケジュールは個人で管理していて、他人が何の断りもなしに自分のスケジュールを書き換えることなんかあり得ないという意識の外国人のエンジニアは、ホワイトボード行き先表示システムなど見たこともないし、自分のスケジュールが書いた手帳を他人に見せる発想などない。唯一彼らにとって便利だと考えたのが、予定が埋まっている "Busy Time" を他人に見せることで、それによって本人と話をしなくても予定を入れることができるという機能であった。しかし、この機能ではスケジュールが埋まっていることは分かってもその内容はわからない。日本式ホワイトボード行き先表示システムでは、A さんにかかってきた電話をとった B さんが「A は、本日は3時まで新宿でミーティングが入っておりますので、戻りは4時近くになります。」なんていう返事ができていたが、外国製スケジューラではできないことになる。

日本式行き先表示システムシステムのエンジニアへの説明は困難を極め、ホワイトボードの写真を見せて、その使い方まで細かく説明しなけれなならなかった。そうすると次に出てくる質問は、「何で B さんが A さんにかかってきた電話をとるのか?」という質問が必ず出てくる。アメリカでは、オフィス用の電話の機能が発達しており、各人に1台外線電話付きの電話が用意され、すべての電話にボイスメール機能がついているのが普通である。A さんにかかってきた電話を隣の B さんがとるよりも、ボイスメールにメッセージを入れた方が、外出先からでもメッセージを確認できるなど便利なのである。これに対する返答は、通常日本のオフィスでは個人用の電話番号はなくて、代表電話かグループにひとつの電話番号を共用しているという事情の説明が必要になる。さらには、1電話番号あたり月に900円もチャージする NTT の課金システムの説明までしなけらばならない。

最近では、Lotus Notes, Outlook + Exchange などグループカレンダー機能が高度になってきており、日本の要望を満たせるレベルになっているが、後から付けた機能は最初から設計された機能ほど洗練度が高くなく、まだ「とってつけ」という雰囲気は残されてしまっている。

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